家中にあるサイケデリックな広告に触発されてにじむ汗も光って見えている。
オレは何をする気もなかったのに「ちょっと趣向を変えようか」と笑って言ったのはあいつだし、夕食も終わって、ドニーは籠もって、マイキーはどうせ寝てる。先生は、気づいているのか知らないが何を言うわけでもない。
修行を終えた道場の、壁に並ぶコレクションから、分銅つきの鎖を引っ張ってきたあいつはちょっと眠そうに時計を見て「12時な」とか言いやがるんだ。
高い天井にサンドバッグ用のポールが渡してある。オレたちが普段ぼこぼこにしてる砂袋の隣にあいつは分銅を上手に投げて落ちてきた端をつかんで振り向くと、「どっちがどっちをやる?」と言いながら自分の腕に巻いていく。鼻先がつくほどオレが近づいても、あいつはまばたきひとつしない。修行終わりの畳くさい腕が首の後ろへまわってくる。表情のない顔で、オレのマスクの結び目をちょいちょいいじるその手をとって後ろにまわして解けないようにしてやると、きいきい鳴る鎖に気をよくしたのか歯をみせて笑って片足で立ったり、ぶらさがってくるくる回ってみせる。「まじめにやれよ」と分銅を掴んでぐいと引くと、ついに足がつかなくなって、あいつの身体はサンドバッグとそう変わらない位置にくる。オレが分銅をポールに結びつけていると「早くしろよ眠いんだ」と砂袋のようなあいつが言う。違うのは、近づくと足が甲羅を挟んできて、ちゅっと頭にキスしてくることくらい。いらないこともよくしゃべる。
「愛してるよラフ」
オレもあいしてるよ。かなり。
甲羅に手を回してずしりとした身体を持ち上げる。しっぽをこねるとすぐに息があがる。その内側なんかくさっているくらいに暖かくて緩い。指をつっこむと仰け反る。胸のあたりに鼻をつけて見上げるとばっちり目があった。青い目。
今にも何か言いそうなその目を思わず手で塞いでマスクの結び目を引っ張って回した。
気づいちゃいけない気がしたんだ。
熱いももをつかむ。ひきよせて鎖をぴんと張る。あとは期待して進め。オレを包むぜんぶの感覚と息づかいを聞きたいんだ。
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